ロバート・スミッソン のアースワークとは何だったのか。ミニマル・アートやオプ・アートの影響を受けた彫刻からアースワークが成立していく過程を追いながらスミッソンの思考を探っていく。今回は特に、彼のアースワーク成立の背景にあった「脱想像」と「スケール」という概念を中心に考察してみたい。
アースワーク成立の背景には、近代以後の芸術と深く結びついてきた「創造」という概念への批判がある。人間によって創造されたもの=人工物という形而上学的な観念は、その下層で働いている物理的プロセスを覆い隠してしまう。スミッソンは、デイビッド・スミスやアンソニー・カロの彫刻をテクノロジーのイデオロギーを謳うものとして批判する。それらは高度なテクノロジーに支えられた素材を採用することで永遠性という幻影を生み出し、物理的な時間を隠蔽してしまう。芸術制作もまたエントロピーの法則に則って行われる。つまりあらゆる生産プロセスにおいては常に、破壊される秩序が生み出される秩序を上回っている。では「脱創造的」な芸術とはどのようなものなのだろうか。スミッソンの制作を通して考察してみたい。
また、《スパイラルジェッティ》に代表されるアースワークは「スケール」という概念に深く関わっている。主体と客体、対象と背景など、私たちは世界を分化し、対比させ、構造化することによって安定した世界像を得ている。そうした対立構造は私たちの言語の基本的な仕組みともなっている。「スケール」の概念は、そうした分化され対立構造化された世界像に対して、脱分化され入れ子状に織り込まれた世界のモデルとなる。スケールのモデルにおいては、ミクロな層とマクロな層が同じ場所に重層し、人工物と自然物が同じものの2つの層として統合され、主体と客体もまた連続したひとつの世界において同居する。スミッソンの作品を通して、そうした脱分化的、脱構造的な世界観を考察してみたい。
松井勝正