ART TRACE 企画シンポジウム
抽象の問題群をめぐって第二回「キュビスムー抽象への抵抗」
前回の抽象をめぐる討議の際に予告したように、今回はキュビスムの提示する問題群の再考の機会としたいと思う。以前にも指摘したとおり、アルフレッド・バーによって企画された1936年の「キュビスムと抽象芸術」展以後、キュビスムの試みからの派生として抽象の問題群を位置づけようとする言説の支配はーもちろん、この図式が様々な批判的検証にさらされてきたことは改めて指摘するまでもない事実だがー、抽象の問題群からの遡及的な視線によって、キュビスムを単に抽象化の作業の前提の位置に集約させかねない徴候を示している。むしろ、キュビスムの実験を現実的に担った画家たちの展開が示すように、彼らがむしろ抽象化への一種の抵抗態とでも呼ぶべき制作を続行した点に注目すべきではないだろうか。少なくとも、キュビスムの試みが、幾つもの多種多様な実験の痕跡をいまなお明瞭に提示し続けることによって、雑然とした実験室の様相を呈していることに注目すべきではないだろうか。そして、実験の最中に投げ出されたかのような幾つもの断片に、その後思考されぬままに止まった無数の刻印の中に、あるいは中断された制作の中に存在する思考の刻印の中に、未来の芸術の形姿が潜勢的に待機しているかもしれない。
もちろん、キュビスムは膨大な数の論考の対象となり、様々な次元での研究がすでに蓄積されているが、今回、改めてその現状確認と潜勢的な力を再検討してみたいと思う。前回に続き、田中正之氏をお招きすると同時に、今回、コラージュの組織的な研究である『切断の時代』(2007年)を刊行された河本真理氏を新たにお招きする。
松浦寿夫
第二回 「キュビスムー抽象への抵抗」
パネリスト
田中正之、河本真理、松浦寿夫、林道郎、松井勝正
日時:2021年4月11日(日) 15:00~17:00
参加費:800円
本イベントは、オンライン配信(Zoom)の同時視聴でのみ、ご参加いただけます。
参加をご希望の方は、こちらからチケットをご購入ください。
お問い合わせ、ご質問につきましては info@arttrace.org にて承ります。
パネリストプロフィール
田中 正之(たなか まさゆき) 武蔵野美術大学教授。 1963年、東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。1990-95年ニューヨーク大学美術研究所に学ぶ。1996年より国立西洋美術館に勤務し「ピカソ 子供の世界」展(2000年)、「マティス」展(2004年)、「ムンク」展(2007年)などを企画。2007年より武蔵野美術大学に勤務。 主な編著書に『アメリカ美術叢書Ⅰ 創られる歴史、発見される風景』(共著、ありな書房、2016年)、『西洋美術の歴史8 20世紀美術――越境する現代美術』(共著、中央公論新社、2017年)、『現代アート10講』(武蔵野美術大学出版局、2017年)など。 |
河本 真理(こうもと まり) 1968年生まれ。日本女子大学人間社会学部教授。パリ第1大学博士号(美術史)取得。専門は西洋近現代美術史。主な著書に『切断の時代 20世紀におけるコラージュの美学と歴史』(ブリュッケ、2007年、サントリー学芸賞、渋沢・クローデル賞特別賞)、『葛藤する形態 第一次世界大戦と美術』(人文書院、2011年)。共著に『現代の起点 第一次世界大戦 3 精神の変容』(岩波書店、2014年)、『西洋近代の都市と芸術3 パリII 近代の相克』(竹林舎、2015年)、『西洋美術:作家・表象・研究 ジェンダー論の視座から』(ブリュッケ、2017年)、『ピカソと人類の美術』(三元社、2020年)、『古典主義再考II 前衛美術と「古典」』(中央公論美術出版、2021年)など。 |
松浦 寿夫(まつうら ひさお) 1954年生まれ。画家。武蔵野美術大学教授。近代芸術の歴史/理論。 |
林 道郎(はやし みちお) 1999 年コロンビア大学大学院美術史学科博士号取得。現在上智大学国際教養学部教授。美術史および美術批評。主な著作に『絵画は二度死ぬ、あるいは死なない』(全7冊、ART TRACE、2003-9)。『死者とともに生きる』(現代書館、2015年)。「Tracing the Graphic in Postwar Japanese Art」(Tokyo 1955-1970: A New Avant-Garde, New York: The Museum of Modern Art,2012)、共編書に『シュルレアリスム美術を語るために』(鈴木雅雄と共著、水声社、2011 年)、From Postwar to Postmodern: Art in Japan 1945-1989 (New York: The Museum of Modern Art, 2012)など。 |
松井 勝正(まつい かつまさ) 1971年生まれ。芸術学。武蔵野美術大学、東京造形大学非常勤講師。 ロバート・スミッソンにかかわる仕事として、論文「《エナンチオモルフィック・チェンバーズ》の立体化」『美史研ジャーナル』2(武蔵野美術大学美学美術史研究室、2015)、共著に『西洋近代の都市と芸術7ニューヨーク』(竹林舎、2017)、『現代アート10 講』(武蔵野美術大学出版局、2017)など。著述以外の活動として「宮城でのアース・プロジェクト:Robert Smithson without Robert Smithson」展(風ノ沢ミュージアム、2015年)など。 |