ART TRACE 企画シンポジウム
壁について
壁について、あるいはあなたの微笑はどこに隠れたの?
境澤邦泰さんと松井勝正さんとによる「壁と絵画」という題名の下での共同作業の余白で、壁について改めて考えてみたいと思います。
例えば、ダニエル・ユイレとジャン=マリー・ストローブによる『今日から明日へ』(1996年)と題された美しい作品は、フランクフルトのとある街区の壁の2分間ほどの固定ショットから始まります。そして、この壁には誰の手によってか、「あなたの微笑はどこに隠れたの?」という疑問文が書き込まれています(なお、この一節を題名に掲げたペドロ・コスタの映画作品(2001年)はユイレとストローブの厳密な編集作業を記録した映像からなっています)。
このフランクフルトの壁の映像は、壁についてのすべてを語っているともいえます。換言すれば、この壁が一種の感光板としてわれわれの知覚に作用する諸条件を提示しているということです。壁を取り巻く大気の諸様態や騒音を含めて。
ところで、フランス語のcimaiseという語は、現在では、一般的に美術館や画廊の展示壁面を指し示す語として流通しています。この語のラテン語の語源、cymatiumに立ち返ってみれば、それは建築用語として、コーニス上部に設置されるS字状に湾曲した二つの曲線によって構成される刳形を意味します。さらにギリシャ語の語源に遡ってみれば、この語が波、波動といった意味場を備えていることがわかります。つまり、シメーズは不断の波動からなる騒めきの場であることがわかります。
そこで、この壁の騒めきへと接近するいくつかの線を素描的に検討してみたいと思います。
松浦寿夫
登壇者
松浦寿夫
日時:2024年2月26日(月) 19:00~21:00
会場:アートトレイスギャラリー >> アクセス
参加費:無料
定員:50名
参加希望の方は、info@arttrace.org まで、お名前、参加希望人数をおしらせください。
現在ART TRACE GALLERYでは、松井勝正、境澤邦泰による展覧会「壁と絵画」を開催中です。
「壁と絵画」では会期中に、そのほかにもイベントを開催する予定です。
展覧会詳細やイベントの情報については以下の特設ページリンクからご確認ください。
関連リンク:壁と絵画 松井勝正・境澤邦泰