ART TRACE 企画シンポジウム

ART TRACE PRESS 06 刊行記念討議 ”抽象の問題群をめぐって”

ブロードウェイ・ブギウギ  ピート・モンドリアン 1942-1943年

 ようやくART TRACE PRESSの6号を刊行することができました。2019年夏の5号刊行から6年余という長い時間が経過することになり、ご寄稿いただいた方々、また本誌の刊行をお待ちいただいた方々に深くお詫び申し上げます。
 本号は抽象の諸問題を検討することを課題としています。二つの討議の記録、討議参加者と寄稿者の方々による論考、そして、ピート・モンドリアンの3編の文章の翻訳から特集は構成されています。また、その他にも、多くの方々から連載をはじめ、貴重な論考をお寄せいただきました。
 ART TRACE PRESSでは、その創刊以前から、抽象の諸問題を検討することを考えてきました。今回、ご協力いただきました寄稿者の方々のおかげで、様々な問題群を整理できたと考えています。そして、これらの問題群をさらに次号以後も検討していきたいと考えています。また、今号の刊行が遅れるさなかで、「抽象の力」展(2017年、豊田市美術館)、「Abstraction」展(2023年、アーティゾン美術館)、「キュビスム」展(2023-2024年、国立西洋美術館)といった充実した一連の展覧会が開催されたことも合わせて指摘しておきたいと思います。
 美術史的な記述の場面では、抽象絵画の出現は表象=再現的な体制の形成以後に、この体制への批判として登場したと記述されます。ところが、この体制の確立以前に、抽象化の作用はつねに、すでに作動しています。むしろ、この体制は抽象の作用力の大がかりな抑圧として体系化されたとすらいえないでしょうか。そして、この事実に注目すれば、このような歴史記述もまた、抽象化の作用力の抑圧ないし隠蔽として組織されたとすらいえるかもしれません。また、時代の趣味、流行現象、市場の動向といった制作外部的な諸条件が、時にはこの本質的な抑圧作用と連動する局面も存在します。

 

 そこで、本号の刊行に際して、改めて、抽象をめぐる諸問題を検討する討議の場を公開で開催したいと思います。われわれが何を論じようとしたのか、またわれわれが何を論じきれなかったのかを改めて再検討し、今後の課題を新たに発見し、提示できる機会になりえるように討議を進めていきたいと思います。皆様のご参加とご助言を厚くお願い申し上げます。

 

松浦寿夫

 


パネリスト

田中正之 松井勝正 松浦寿夫

日時:2026年1月10日(土) 19:15~21:30
会場:アートトレイスギャラリー  >> アクセス
※本イベントは、オンライン配信の同時視聴でもご参加いただけます。

参加費:
(1) 書籍 ART TRACE PRESS 06号 購入と当イベントのセット
    3,300円+税
(2) イベント参加のみの場合
    1,000円+税

※会場でのご参加もオンラインでの視聴でも、参加費は同額となります。
※会場参加の方、オンライン参加の方いずれも、イベント終了後、当日の配信動画をご視聴いただけます。
 配信映像は、終了後約2週間の公開を予定しています。
※オンライン参加の方には、視聴用リンクのURLを開催日までにお送りします。
※会場参加の方には、イベント終了後に視聴用リンクのURLをお送りします。

定員:50名(会場での参加)

参加をご希望の方は、こちらのオンラインショップから各種チケットをご購入ください。

お問い合わせ、ご質問につきましては info@arttrace.org にて承ります。

田中正之
1963 年東京生れ。国立西洋美術館長。専門は西洋近現代美術史。

松井勝正
1971 年生まれ、武蔵野美術大学非常勤講師。芸術学。
主な論考に「ロバート・スミッソンのエントロピーの美学」(『ART TRACE PRESS 05』、2019 年)。「形
と色のパラドクス――マティスの原理」(『ユリイカ』2021 年5 月号)など。 共著に『美術批評集成 1955-1964』(藝華書院、2021 年)。『政治の展覧会:世界大戦と前衛芸術』( EOSARTBOOKS、2020 年)。『西洋近代の都市と芸術 7: ニューヨーク―錯乱する都市の夢と現実』(竹林舎、2017 年)など。「アー
トユーザーカンファレンス」や「壁と絵画」などのユニットでさまざまな展覧会、イベントの企画も行なっている。

松浦寿夫
1954 年生まれ。画家、批評家。多摩美術大学絵画科客員教授。
近年の展覧会として、個展(ギャラリー21yo-j,、東京、2022 年、ガレリア・フィナルテ、名古屋、2024 年)「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」展(国立西洋美術館、2024 年)。また、翻訳書として、ジョルジュ・ディディ= ユベルマン、『われわれが見るもの、われわれを見つめるもの』(共訳、水声社、2024 年)。